STATEMENT / 15 AUGUST 2026

皇室・皇位をめぐる議論に関する研究成果の尊重を求める古代史研究者の会の声明

発出日
2026年8月15日
発出主体
皇室・皇位をめぐる議論に関する研究成果の尊重を求める古代史研究者の会 一同

今回の皇室典範改正に際して、2026年7月10日の衆議院運営委員会において、自民党の小林鷹之政調会長が、「皇位の男系継承は2600年以上にわたり先人たちが守り抜いてきた皇室の伝統だ」と述べたことが伝えられています。小林氏に限らず、複数の政治家によって同趣の発言がくり返されており、私たちは、こうした状況に深刻な危惧を抱いています。

こうした発言は、奈良時代に作られた史書、『日本書紀』にみえる初代天皇の出現と、その後の皇位継承の記述にもとづいています。『日本書紀』によると、紀元前660年にあたる辛酉(かのととり)年に初代神武天皇が即位し、皇位は男系により継承されたことになっています。

しかし紀元前660年は、考古学の研究成果によれば、縄文時代晩期、または弥生時代早期にあたり、日本列島にはまだ文字を使用する文化は存在しませんでした。そもそも、辛酉年が歴史的事実ではなく、その年に大きな歴史的変革があるという中国の思想にもとづいて後世に造作されたものであることが、19世紀末、すでに明らかにされています。

さらに、第2代以降の天皇にも実在しない人物がいることが指摘されています。その後の天皇につながる倭王の地位が世襲的に継承されるようになるのは、紀元6世紀以降とするのが、現在の通説的な見解です。

かつて、天皇や皇室につながる学問的な研究成果を明らかにすることに大きな制約があった時代がありました。

1889年に発布された明治憲法では、天皇による統治が「万世一系」の皇統にもとづくものとされ、同時に制定された皇室典範によって、皇位は皇統に属する男系男子が継承すると定められました。1940年、治安維持法をはじめとする一連の政策により、『古事記』や『日本書紀』の記述を疑問視した津田左右吉の学問的な著作が発売禁止とされ、大学教員の地位を追われるといった弾圧が行われました。

1946年に制定された日本国憲法では、こうした過去の反省にもとづいて、学問の自由はもとより、思想・信条の自由が保証されました。以来80年、自由な空気の下で進められた研究は大きく進展し、古代の王族のあり方もさまざまな角度から検討が進められています。

今回の、「皇室2600年の歴史と男系男子による皇位継承」を謳う政治家の一連の発言は、連綿と続けられてきた古代史研究の成果を否定するもので、到底容認できません。またこうした学問的成果の軽視が社会を萎縮させ、思想・信条の自由が再び奪われる世界が訪れることを危惧します。

私たちは、皇室や皇位のあり方をめぐる政治的主張が、恣意的に語られるのではなく、これまでの学問的研究成果を尊重したものであることを強く求めます。

2026年8月15日

皇室・皇位をめぐる議論に関する研究成果の尊重を求める古代史研究者の会 一同

代表幹事 古市 晃(神戸大学教授)
幹事 今津 勝紀(岡山大学教授) 田中 聡(立命館大学教授) 田中 禎昭(専修大学教授) 中林 隆之(専修大学教授)